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Venture Day Finalへの道(Jan-2018 intake)Vol.1

2018年1月入学、IMBAプログラムの中村です。

 

2018年11月30日のVenture Day(IE Business Schoolのマスタープログラム学生によるスタートアップコンテスト)にて、Finalistとしてピッチをさせて頂きました。Start Up Lab終了後からVenture Day Finalに至るまでの道程を、書かせていただきます。

なお、我々のチームアイデアは、Start up Labからの延長となりますので、そちらの記事を先に読んでいただけますと幸いです。

1) Start-up後、夏休み期間(8月)を利用した準備

IEは、8月いっぱい夏季休暇になります。7月末にStart Up Labを終えてから私がまず行ったのは、お世話のなった投資家やメンター、日本食レストラン、デザイナーの方々へのLab結果報告と、今後の継続サポートのお願いでした。そして、マドリードの日本食レストランでたまたま出逢った日本人シェフの方(Tさん)に、Don Buriのアイデアとビジョンを話し、Don Buriのメンバーになって頂くことに成功しました。(Start Up Lab体験記で記載した方)

 

同時期に、Japan Weekendという日本の漫画・アニメなどのイベントが9/29,30にマドリードで行われることを知り、そこでDon Buriの露店を出そうという話を、Don Buriメンバーとしていました。

 

Tさんの伝手で、マドリードにある日本食の卸売業者二社と面談し、Japan Weekendに向けて調理場所の提供や協賛などをお願いできないか相談しました。また、IEのエコシステムを使い、今後、Don Buriを本格的に進めていく上で、スペインでの会社登記、商標登録などの話も、弁護士の方と進めました。 

2) 9月からのElectiveにおける、Start UPプロジェクトの位置付け。Knowledge IncubatorクラスとVenture Labクラス

9月から最終学期のElective Periodが始まりました。期間は、卒業までの約3ヶ月間。

スタートアップ関係については、いくつかのアントレの授業(Social Entrepreneurship, Entrepreneurship to Venture Capitalなど)の他に、Knowledge IncubatorとVenture Labという、スタートアッププロジェクトに特化したクラスが2つあります。どちらも、Electiveの数あるクラスの中の1つです。この2クラスは、Parisと呼ばれるIEのスタートアッププログラムにおける名物教授が担当しているのですが、クラス内でチームを組み、起業アイデアを練り、選考会を突破したたチームはVenture Dayで20人以上の投資家を前にピッチを行うことができるものです。(そこから、実際の投資にも繋がります)。では、この2クラスの違いはと言うと、Venture Labは、ビジネスアイデアやチームが明確になっている「一次選抜組(Lab学期中に申し込みを行い、選抜された12チームだけが入ることを許されるクラス)」、Knowledge Incubatorは、Venture Labの選考に漏れたチーム、もしくは、これからアイデア・チームを作っていく初期段階の人が取るクラスとなります。両方のクラスを取ることはできず、Knowledge Incubatorには選抜プロセスはありません。 

 

クラスの形として、Venture Labは、授業というものがなく、指導教授のParisが不定期で呼ぶ投資家や起業家のセッションに出たり、彼らにアイデアを相談したりするワークショップ型のものになります。大変なプロジェクトをやっているということで30単位がもらえます。一方で、Knowledge Incubatorは、Venture LabようなゲストスピーカーのセッションやParisによる講義など、全て授業形式で行われます。これは、20単位がもらえます。どちらも、1~5人まででチームを組み、アイデアをビジネスプランにしてピッチを行うことが課せられます。各チームには、起業家として経験が豊富なメンターが付きます。

 

 Don BuriはVenture Labの選考に申し込んだのですが、残念ながら落選しました。正直、Start Up Labで良い結果が出ていたので相当悔しく、Parisに直接メールし、選考基準の明確化と落選の理由を教えて欲しいとまで訴えました。

とはいえ、何れにしても結果は結果。チームメンバー皆で話しあった結果、「Don Buriを続けよう、Knowledge Incubatorクラスを受講しよう」ということになりました。ただし、この時話し合ったのは、「あくまでも我々の目標はDon Buriのアイデアを形にすること。Venture Dayに進出することではない。起業に向けて具体的に、自分達の信じることをやろう」というものでした。

3) Japan Weekendと日本のアニメ/漫画ブーム

スペインだけでなく、世界各国で日本の漫画やアニメ、ゲームが流行っていることは、ご存知の方も多いと思います。ポケモン、ドラゴンボール、キャプテン翼といった有名どころから、ラノベ作品まで、世界中で多くのファンがいます。

漫画・アニメの欧州市場は約3000億円。年間15%で伸長しています。スペインでも、民放でドラえもんの放送があり、2018年の携帯アプリの課金額ランキング5,6位は、ドラゴンボールとポケモンでした。

 

そんなスペインにおいて、Japan Weekendというイベントは、日本の漫画・アニメ・ゲーム、およびJapanese POP-culture好きが集まるイベントで、スペイン各地で年間12回開催されています。2018年9/29,30の二日間マドリードで開かれたものは、来場者数が70,000人でした。先述の通り、Don Buriも露店の出店を計画していたのですが、諸々の手続きが間に合わず、お店を出すことは断念。一方で、チラシを作り、会場にコスプレをして一般客として参加し、Don Buri宣伝のチラシ配布と、来場者とのコミュニケーションを行いました。

 

会場では、多くの来場者から「一緒に写真を撮りたい」と言われ、また、露店がカップ麺、カレーライスなどを販売しており、そこに長蛇の列ができていました。カジュアルな日本食、そしてアニメキャラクターの人気の高さが伺え、「Don Buri+J-pop cultureでいける!」という確信が深まっていきました。

 

4) Yan Ken Pon (マドリードの日本食レストラン)とのコラボレーション

スタートアッププロジェクトを実施するVenture LabとKnowledge Incubatorでは、全てのプロジェクトに「Manual Simulation」が要求されます。Manual Simulationとは、自分達の提供する商品やサービスを実際に運用して検証をしていくというプロセスです。

 

例えば、Start Up Labでは、これに近いことをValidationという形で要求されましたが、仮説検証による仮説の正当化は、例えばサーベイなどからでもある程度行えるものの、Manual Simulationでは、商品・サービスの作り込みと、実際の顧客との連携まで課せられます

 

10月に入り、いよいよDon Buriも具体的なManual Simulation手段が必要となったのですが、ここで日本人シェフのチームメンバーT氏が、MadridのLa LatinaにあるYan Ken Ponというカジュアル日本食レストランとのコラボを提案してくれました。Yan Ken Ponは、日本人シェフで夫のAkiさんと、日本人/スペイン人のハーフの妻Twiggyの二人が経営する寿司・ラーメンレストランで、妻のTwiggyはスペインのTVでDirectorをやっていた経歴ももつ面白い夫婦です。T氏の紹介もあり話がスムーズに進み、メニューや売上の拡大を図りたいYan Ken Pon側と、Manual SimulationでDon Buriの検証を行いたい我々とのコラボが成立しました。

 

Yan Ken PonでのDon Buriの期間限定販売は11/6~11/23となり、そこに向けてメニュー・レシピの開発、食材の仕入れ、プロモーションツールの製作やお店のコンセプト作り、販促方法などを詰めていきました。

週に何度もお店に通い、オーナーの二人だけでなくスタッフ全員とコミュニケーションを深めました。また、Start Up Lab時にクラウドソーシングでDon Buri店舗のインテリアデザインを描いてもらったプロの日本人デザイナーの方にコンタクトし、ポスター、メニュー表、景品等のデザイン作成も無償でやってもらえることになりました。さらに、漫画ショップや日本食材店へ足を運び、ポスターの設置をお願いし、週末はYan Ken Pon店舗周辺でのビラ撒き、その他Instagramやfacebookで販促広告を出すなどしました。

 

結果、期間内の来店客数は15%上昇し、3種類のDon Buriは、味・量・価格で総合90%以上の人から高評価。アニメ・漫画コンセプトの店づくりは、80%以上の人から高評価を得ました。一方で、既存店舗とのコラボであったため固定客へのDon Buri紹介が多くなってしまったこと、既存メニューとのカニバリやコンセプトの曖昧さ、実施期間が短かったことによるターゲット層へのアクセス不足、販促でバズらせることができなかったことなど、反省点も多々ありました。

 

5) Venture Day セミファイナルへ

本当に多くの方々の協力のもと、Don BuriのManual Simulationは、目的としていた仮説検証(味、量、値段、漫画・アニメ)に対し、一定の成果を得ていきました。そんな中で、Manual simulationの期間中であった11/12~16には、11/29のVenture Day Finalに向けた選考会(Semi-final)が実施されました。Semi-finalにはMBAプログラムからだけでなく、IEの他のマスタープログラムからもたくさんのチームが参加し、Parisおよび選考委員である4名の投資家の前で7分間のピッチをします。総勢60チーム以上が参加してのコンペティションでした。

 

我々Don Buriは、先述の通りVenture Dayに出場することが最終目的ではないとしていましたが、起業に向けた投資家との接点を得るには、Venture Dayは非常に重要な機会の一つです。可能性が少しでもあるならやろうと、Semi-finalに応募し、11/13にピッチを行いました。

 

Start UP Labから一貫してピッチ時にはDon Buriのサンプルを作って持参していましたが、選考委員の方々に少しでもこの日本食を知ってもらい楽しんでもらおうと、Semi-finalでも用意しました。

 

お店でDon Buriを販売していた時のように、アニメキャラクターのコスチュームを着用し、ピッチも普段通り我々の思いを伝えることができました。選考員の方々にはDon Buriを試食してもらえ、「美味しい」と言って頂きました。

 

日本人からすると、ただコスプレして、家庭料理の日本食を提供するという、珍しくもない行為に映るかもしれません。しかしながら、これは、MBA一年を通じてずっと感じたことですが、「自国や自分達の価値観で、当然と考えること、当然とされるやり方も、環境が変われば大きな価値になる」ということを、Don Buriのプロセスを通じて改めて感じました。

イタリア人同期が作るパスタやリゾットは、日本のその辺のイタリアンレストランで提供されるものより美味しいんです。自社の提供商品については、様々な状況に応じた客観評価ができるかどうかが、ビジネスチャンスを掴めるか否かの一つの重要なカギであると感じました。

 

ピッチの結果、Semi-finalではParisを含め、複数の選考委員から高評価を得たと、後でParisから総評を受けました。Venture Labの選考に落ち、一度は諦めたVenture Day finalですが、自分達の信念を貫き通し、最終的には図らずも、Venture Day Finalへの切符を手にすることができました。