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南アフリカでのコンサルティングプロジェクト体験記

IMBAのLab Period(必修科目の後)の選択肢の一つであるSocial Impact Labを選び、南アフリカでのコンサルティングプロジェクトを経験したAさん(2019年12月卒) の体験記です。

 

1) Social Impact Labとは

インターンシップという感じは全くなく、完全なるコンサルティングプロジェクトです。というのも、任されるタスクが経営の根幹に関わるテーマが多かったように思うので。受け入れ企業(NGOの場合もありましたが)側も何とか現状の様々な問題を打破していきたい、その課題解決の大きなエンジンとして世界のMBAの学生を受け入れて、社内リソースとの化学反応を起こしたいという緊張感あるものでした。

ざっくり他のラボとの比較をすると、以下のようなイメージです。

 

  • Start-up lab:起業アイディアをつくり、投資家にピッチする(0→1の価値を創る世界)
  • Business impact lab:大企業の経営コンサルタントとして、事業アイディアのピッチを行う(100→1000を目指す)
  • Tech lab: 同じく大企業向けのコンサルティングを行うものであるが、企業がテック系から選定される(同じく100→1000)
  • Social impact lab(SIL): 社会的企業やNGOに対してコンサルティングを行うというもの。マドリードと南アフリカのヨハネスブルグの2拠点から選択(10→100の課題に取り組む。)

 

SILの対象企業ですが、基本的なイメージは創業2年ぐらいのベンチャー企業(ITを使った新たなアプローチ)が大部分だったと思います。

社会的企業ということで身構えてしまう方もいるかもしれませんが、営利企業と基本的なところは変わらないです。社会的企業の定義は色々ですが、SILの場合は、例えば商品やサービスの主な顧客が貧困層であったり、従業員や取引先を(経済・社会的に)あまり恵まれていない層から積極的に雇用・調達したり、というようなことで社会的企業と定義しているような印象を持っています。実際の企業の実務は財務、マーケティング、営業、等々、一般的な企業とやっていることは何ら変わりません。

 

このプログラム自体は、Emzingoという企業が運営しています。Emzingoは、IEの卒業生が2008年に設立した社会的企業で、IEをはじめとした世界のMBA等の学生を集め、南アフリカ、スペイン、ペルーなどの社会的企業、NGOに派遣してコンサルティングプロジェクトをやったり、有償で企業向けに研修などをやっている団体だと記憶しています。Emzingoの幹部がIEでも教授を務めており、IEのプログラムとしてのパイプ役を担っています。

 

2)SILの選考プロセスについて

選考は、他のLabと同様、コアターム中に説明会が開かれます。選考があるのはSILだけで、倍率は年によって変動します(大体1.5〜2倍くらいか。ただしエッセイを見て辞退した人も多そう。)。

選考は以下の3ステップで決まります。

 

  • エッセイ(6題くらいの長文で、コアのかなり忙しい時期に書かないといけないので、心が折れそうになった記憶があります)
  • グループ面接(5〜7名くらいで、一つのケースを解くというもの。私の時は、ある途上国のFin-tech分野で起業した会社が、経営課題を抱えており、どのように支援するかをチームで発表するというテーマ。)
  • 個人面接(今までのキャリア。これからどのように働きたいか。SILの志望理由と、自分がどのように貢献できそうか。)

 

ヨハネスブルグ日程では、合計14名の少人数での参加で、加えて他大学から6名の、総勢20名の参加でした。

学生の出身国は米国が半分程度と多く、他には中南米、イタリア、ルクセンブルク、ロシア、カナダ、ノルウェー、日本。学生の経歴は様々ですが、マドリードで知り合う学生よりも、パブリック寄りな経歴をもった学生が多いような印象です。例えば、国連、外務省、米国の海外協力隊(アフリカなどで教育のボランティア)、ワシントンでの政府向けシンクタンク、BIG 4系のコンサルティング会社でブラジルでCSR担当など。残りは起業家、資源開発のエンジニア、戦略コンサルタント、会計士、サプライチェーン管理、等々。卒業後に国際機関に転身した仲間もいます。

 

3) なぜSILを選択したか

派遣先の企業規模が小さく、経営者や従業員と1ヶ月間朝から夕方まで、膝詰めあってみっちり経営改善に向けた活動提案ができることが魅力でした。私自身、途上国での勤務経験もあったので、シナジー効果もありそうと思いました。

 

4) SILプログラム内での活動内容

最初の1週間は、オリエンテーション週間で、講義形式にて南アフリカの歴史(アパルトヘイト、マンデラ博物館視察)、政策(BBBEE:黒人経済強化政策。アパルトヘイト時代に不利益を被った黒人・カラード(有色人種)に対して経済的特権を与えるもの。)、旧黒人居住区(タウンシップ)の取り組み(起業家やNGOによる再開発や、CSR資金を利用したPC供与とソフトウェア教育など)等を学びました。

 

その後学生は、それぞれ個別の企業に配属(大学側から指定される)され、私が配属された企業は就職情報を割安で受け取れ、マッチングを速やかに実現するというITサービスを構築中のベンチャー企業でした。平日の4日間は朝の10時から16時まで事務所で働き、夜は調べ物をしたり、ジムに行ったり、ルームシェアしていた友人と一緒に夕飯を食べたりして過ごしました。毎週金曜日は、Emzingoでのフォローアップ期間となり、お互いの活動内容のシェアや、デザイン思考などの追加的なワークショップを受講したりという時間を過ごしました。

 

現地高校生向けに就職フェアを開催したときの写真
現地高校生向けに就職フェアを開催したときの写真

活動は充実しており、人にも恵まれ、特にチャレンジと感じることはなかったですが、週末にケープタウンに屈強な(私以外)男子5人で旅行した際、6時間の登山にチャレンジすることになり、崖から転落したという経験です。

土地柄ワインが美味く、連日飲み歩いていたことと、まさかそこまでハードな登山になるとは知らずに軽装で臨んだことが災いしました。幸いかすり傷程度で済みましたが、山を舐めてはいけないと身をもって理解することになりました。

 

6) SILから得られた学び

多くの学生が感想として述べていたのは、マドリードでは得られない現場体験、全く違う文化での生活、一生の友達ができた、といったことでした。私にとっての学びは、スティーブ・ジョッブズなどのごく一部のスター経営者とは違う、等身大の起業家が抱える悩みを知ることや、前向きに仕事に取り組んでいこうとする人々の熱気に触れることができたということです。

 

7) Post MBAでどのように生かせそうか

社費なので、元の会社(金融業界)に戻ってきています。幸い、アフリカ関連の案件も担当することになり、現地の事情に思いを馳せながら情報収集を行ったり、起業家の立場に寄り添ったサービスを提供できるよう努めていきたいと考えています。言うは易し行うは難しですが。

 

私の仕事は、リスクの適切な管理がマンデートとなっている業界でもあり、10割の量の意思決定をするために、8割、9割の情報を集めてから決断するといった風土があるのですが、ベンチャーの場合はスピードが命です。限られた時間で知恵をひねり出して集めた2割の情報で、経営者の意思決定の支えとなることができるか、といった現場を経験できました

これは、異なる国や業界の方々と接する際に、相手の立場を理解する補助線となると考えています。

 

8) SILをお勧めしたい人

ダイバーシティが豊かな場所で、物怖じせず自分の意見を伝え、様々な立場の方々の声に耳を傾けられる人。

アメリカンホームドラマのような英語環境での生活を存分に経験してみたいと考える人。

ベンチャー企業での経営に携わりたい人。

体力のある人。