卒業後に起業する卒業生が多いのもIEの特徴ですが、卒業後数年たってから起業する方もいらっしゃいます。株式会社スマートショッピングの代表取締役、林 英俊さんに、MBA前後のキャリアとどのように起業にいたったかについてお話を伺いました。
「測る」ことでモノの買う・保管・消費を変革
Eコマースのスマートショッピングという会社を起業されて、メディアからも取材を受けてますよね。注目されている御社のスマートマットついて少し教えてください。
一言で言うと在庫を測る専用の体重計で、インターネットに繋がってます。在庫専用のIoT重量計みたいなもので。
これまでの経験から、定期購入って究極のサービスなのかなってよく自問してまして。例えばシャンプーを定期購入したいなと思った時に、1ヶ月〜6ヶ月の間から選ぶみたいなサービスですけど、まず自分が何ヶ月で消費してるかわからないんで、なんとなく中間を選んだりとか。仮に45日とわかっても1か月と2か月の間で悩んじゃったりとか。購入頻度が適当に選ばれて、まず当たらない。
もう少しテクニカルな話になると、夏と冬で使う量が違うとかあるのに一定の期間で届けているので、やっぱり欲しいタイミングに来ないんですよ。
そこってなんとかならないのかなってずっと考えている間に、まず最初は購入の履歴とかから例えば5月1日、7月1日、9月1日ってきたら次は11月1日だろう、っていうシンプルな考え方でソフトウェア学習できないか、色々トライしたんですけどなかなかできなくて。
となると、残りの量を測るしかないんじゃないかってなって、ハードウェアへいきなりジャンプです。残りの量を測るのにカメラとかチップだとか重量だとか、色々ある手段の中で、重量が一番良さそうだっていう結論にいたってこれを作り始めた、そんなマットですね。
一般の家庭にダイレクトに置いて、測って一番安いところから勝手に届いたらすごく良いなと思っていたんですけど、実はテストマーケやると結構ビジネスのお客さんからすぐほしいという引き合いがあったので、今はビジネスのお客さん中心に展開しています。
測るものとしては、会社のコピー用紙とかトイレットペーパーとか?
最初はオフィスの来客用ドリンクとコピー用紙だけイメージしていたんですけど、嬉しいサプライズが2つくらいあって、1つは業種を問わないということ。例えば工場のネジでも使いたいだとか、ホテルのドリンクとかリネンとか、病院の点滴で使いたいだとか、結構世の中いろんなところでモノに困ってる業種はものすごく広くて、最初始めた頃よりもびっくりしてるのと、もう一つはスマートショッピングって名前にしてるので買い物を自動化することだけ考えてたんですけど、最近だとビュッフェのカレーの下に置いて補充を効率化するとか、ゴミ箱の下に置いて回収を効率化するとか、買う・消費する以外の、サプライチェーン全体の中で不便なところが便利になる。なので思ったより用途が広くて、いろんな使われ方してるのが現状です。
最近飲食だとか小売の店舗さんでも什器に組み込んでいただく形が増えましたね。これを覆う様な什器作ってくださったりとか、棚をくりぬくことを考えてくださったりとか。我々そこまでノウハウがないので、自分たちで完全に出すことができない。お客さんが補って売ってくれてる様な。家だとキッチンの下の収納とか収納に入ってる感じですね。
ユーザーさんが自分で考えてユースケースを出してくる。
おっしゃる通りなんですね、我々も営業でかっこよく仮説持って、効率化できますよって最初言ってたんですけど、どちらかというと、こういう使い方もありますけどってお客さんに教えてもらいながら用途が広がっていく感じですね。うちならこれで使えるよと。僕らだと全業種の業務がわからないので、教えていただいている感じですね。だからうまくお客さんにヒントを渡して考えてもらう様な営業をずっとやってます。
重さを測る、っていうシンプルなことでこんなにドメインが広がるっていうのもすごいことですよね。見た目もすっきりしているし、いいですね。
工場に置く時とかは逆に、黒でいいんだよ黒でって(言われたり)。笑 でも飲食店さんだとかっこいい方がいいですよね。
どんなご経歴だったのか、MBA前後で教えて頂けますか?
日本でコンピューターサイエンスのマスターまで出た後、新卒では経営コンサルティングの会社に入ってそこにまず7年、そのあとアマゾンに3年、今起業して5年、という感じのキャリアです。最初の経営コンサルティングのローランド・ベルガーの在職中にIEに留学をさせてもらったというのがざっくりとしたキャリアになります。
アマゾンではどういったことを担当されてたんですか?
消費財の事業部で新しいサービスを企画し立ち上げて、それを運営する責任者みたいなことをいくつかのサービスでやらせてもらっていました。例えば水だったりトイレットペーパーだったり、スーパーとかコンビニとか、ドラッグストアに売ってる様な商品をEコマースで売っていたんですけど。
本とは違って繰り返し買うので定期購入サービスのオーナーをやったり、あとは働くママが家から出られないという話が結構あったので、アマゾンファミリーっていう会員サービスを、立ち上げの時期はエンジニアと一緒にサービス作って立ち上げたあとはCSに対してこういう問い合わせはこういう風にしてくれだとか、マーケティングしてその会員数を増やさないといけなかったんでいろんなところに広告出してとか、ローンチはどちらかというとマーケティング色が強くなって数字責任も持ってたので数字のレポーティングをして。
日用品を取り扱う仕事から、今の起業につながった?
楽しいなとすごく思いましたね、消耗品のEコマースって。やっぱりスーパーとかリアルな世界がぐわっとネットに移ってくるところを感じていたので、この未来はすごく楽しそうだなっていう中で、なんか自分でもやってみたいなという思いはアマゾン時代にありました。
コンサルの時にどういう経緯で社費でMBA留学されたんですか?
海外のプロジェクトが増えていく中で、自分がそういう経験がなかったのでなかなかアサインされなくて、国際感覚を学びたいというのもありましたし、新卒で入ってからはプロジェクトごとにいろんな学びがあるんですけど、体系的にビジネスや経営を学んだことってなくて、断片的に持っているものをちゃんと整理して自分の知識にしたいと思いました。
そこでなぜIEへ?
元々会社から2年とか長くダラダラとやるなと、集中して1年で勉強してこいとまずは言われてまして、必然的にヨーロッパの方を考えることになったんです。で、僕もともと旅行が好きなんですけど、どうせいくなら今までと違う価値観のところがいいかなと。スペインって元々好きなんですよ。お酒も好きだし。
どうせ飛び込むんだったら日本とかアジア圏から一番遠そうなところっていうとスペインや南米。
スペインには自分が一番知らないダイバシティーがあるんじゃないかなみたいな、そういう風に思ったのもありますね。
MBAでの学びは、どんなふうに役に立っていますか?
振り返ってみると色々あるんですけど、皆さんが言うように、ダイバシティーっていうのは当然あそこにいるとすごく深く感じました。
ビジネスだけで海外行っていると、ビジネス英語でしかできないんですよね。で仕事のついでに飲みに行こうと思うと、そこでちょっとウィットの効いたことをいうとか、さらに仲良くなるとかできない。IEではいろんな国の人がいてタブーもありながら、こうすれば仲良くなれるっていう、オンとオフのコミュニケーションを多様性の中で学べたことは大きいです。
あと2つあって、海外での議論とか交渉の仕方が僕は一番勉強になったと思います。今も日本モードと海外モードとスイッチを持っていて、日本だとちょっと柔らかめな日本的な交渉をするんですけど、海外だとガツガツ議論やって会議室出たら忘れてる、あの爽やかな感じ。あのおかげで中国との交渉もズケズケ行きますし、シンガポールやアメリカに売る時に一歩も引かないですね。遠慮したり、「向こうがこう思ってるだろうから先回りしてこうしよう」じゃなくて、「まず自分のやりたいこと言ってダメなら向こうが言ってくるだろう」、そういう感覚のスイッチを入れ替えられる様になったことですね。
最後は狙ってた通り、いろんな事例はコンサル業界で触れてきましたけど、ファイナンスの基礎を改めて学ぶと腹に落ちることが結構あって、ファイナンス会計系の授業はすごく勉強になったと思います。今まで断片だけだったのが接着剤の様に繋がっていく様な感じ。あとは元々コンピューターサイエンスだったんで、デジタル系やアントレ系の授業ではやっぱりデジタル系好きだなと。NetflixやGoogleの話はコンサル業界にいると全然出てこないんですよね。元々ビジネスのこと知りたくてコンサル業界に入ったんですが、結局アマゾンで働いたり、起業してるのもインターネット好きだからなんですよ。それを思い出すきっかけになった授業は好きでしたね。
身近な人が幸せになっていく事業がしたい
今のお仕事で楽しいなって思える瞬間ってどういう時ですか?
サービスを作るっていうのもあるんですけど、今人数を50人から100〜300って増やそうとしてるので、どの組織にも一度だけある、会社の土台を作る様なことに触れられてるのが最近は楽しいです。
例えばソニーが持ってるソニーらしさみたいなのってこういう時期にできるんだな、と。会社のカルチャーだったりノリだったり、ここからちゃんと確立していくプロセスに触れられてるのが楽しいです。
あとは、ニッチなお客さんにすごく深く刺さるサービスよりも、なるべく身近な人も含めてたくさんの人が幸せになるサービスを作りたいなと元々思ってたのが、その通りになってきてる。それは楽しいですね。身近な友達のオフィスでも使ってもらえるのは楽しいですね。最初のコンサルティングの時は閉鎖した空間で偉い人たちと話して1本1億とか、そういうビジネスだったんですけど、アマゾンの時に二百円の歯磨き粉とか売っているのも楽しかった。そういう好きなことが今もやれてて、しかも自分のサービスが世の中に広がっていく感覚が楽しいですね。大きく2つそんな感じです。
今後こういうことをやっていきたいなっていうのがあれば。
会社は海外の展開を考えていて来年1〜2カ国。インターネットの世界ってアメリカの偉大な会社がグローバルにうまく行ってる感じがあって、日本の会社はチャレンジするけど勝ててない。そこにハードウェアを絡めると日本人の何かが詰まってんじゃないかみたいな、いい見え方をするポジションにいるので、せっかくIoTという領域にいるので日本発で海外でインターネットの領域で戦える会社になりたいなというのはあったりしますね。
あとは一度諦めた一般家庭向けを着々と進めていきたいですね。小さいサイズや最初からキッチンに埋め込む形とか、インテリアに溶け込む形で普通の家で使われる様にできないかなと。一番身近なところが幸せになる絵を見てみたいですね。
個人としては、元々5年働いて1年休むっていうキャリアプランを持ってたんですけど、中々うまくいかなくて、ここのところ結構長く働き続けてるんですよ。なんで5年働いて1年休むかっていうと、老後に時間ができてもエネルギーが失われている可能性があって、エネルギーとちょっとのお金とちょっとの人脈がバランスよく揃っている今のうちに1年間休んでぐるぐるいろんなところ回るとかやってみたい。
それは5年に1度休んで、また5年に1度休む?
ずっとサボるだとやっぱりダメなんでちゃんとメリハリつけて。メルカリの社長さんとかも世界一周して起業したりとか。僕もそういう刺激を時々受けると発想が広がるというか。そういう働き方したいなと思ったりしてます。
林さんなら実現できると思います!ありがとうございました!