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卒業生インタビュー:曽我晃久さん(GMBA2018)

 

2018年にIEを卒業し、現在はトーア再保険において、海外も含めたグループベースでのリスク管理、資本管理を統括している曽我さん。今回はオフィスにお邪魔してお話を伺いました。

 

 

これまでのキャリアについて教えていただけますでしょうか。


大学を卒業して投資銀行に入社し、スタートアップ企業のIPOや上場後のIRの活動に関与しました。数年後、経営コンサルティングファームで、主に銀行や証券会社の事業戦略の策定に携わり、その後今のトーア再保険に入りました。


 

投資銀行から経営コンサルティング、そして再保険と、かなり幅広くキャリアを積まれているんですが、その転機になったことを教えていただけますか。


例えるなら、F1のカーデザイナーからドライバーへ

例えると最初のIPOやIRという仕事は、F1のカラーリングデザインのような仕事だったと思います。会社をカッコよくカラーリングして、投資家からいかに資本を引き寄せていくか。ですが会社の業績が下がると株価が下がる、株主も減っていく、ということで、やっぱりエンジンである企業体質そのものを改善しないといけないのではないか、そんな思いでコンサルティングファームの門を叩きました。

 

経営コンサルは非常に楽しかったし、一生懸命提案した戦略が、一部でも採用されればコンサルタント冥利につきて嬉しかったですね。ただ一方で、提案した内容が却下され残念な思いもしたことがありました。結局はクライアントが意思決定をするんですよね。

 

じゃあ自分が意思決定を行うF1ドライバーになるにはどうしたらいいのかということを考えたときに、自分自身が経営に本当に近いところに身を置くしかないということで、今の会社に入りました。

 


面白いたとえですね!納得です。ところで、失礼ながら再保険という業界はあまり一般的にピンと来ないと思うのですが、どんな業界なんですか?


そうですね。再保険は保険会社さんの保険です。当社が地震や台風などのリスクを引き受けて、お客様である保険会社の健全な経営をサポートする仕事です。その意味で、再保険は一義的には確かに保険ですけど、実は再保険というのは、保険会社による資本調達手段の側面もあるのです。具体的に言いますと、保険会社経営では、自己資本と引受けたリスク、これをいかにバランスよくコントロールするかが非常に重要になるのですが、これには主に三つの対応方法があります。

 

一つ目は、今ある自己資本の範囲内でリスクを引き受ける方法。二つ目は、一部のリスクを再保険会社に流して保有リスク部分を調整する方法。三つ目は、リスク調整じゃなくて、逆に自己資本サイドをファイナンスによって強化していく方法。

ですので、再保険っていうのは保険会社にとって、保険であると同時にCost-effectiveな資本調達手段でもあり、保険会社経営の根幹そのものでもあるのです。

 

加えて、再保険は実に奥が深い。再保険はグローバルにビジネスを展開していきますので、再保険の知識はもちろんのこと、語学、各国の法規制、会計・税制度、またその国の文化といったことにも精通している必要があります。さらに近年はその5つの分野に加えてモデリング・ビッグデータといったIT、そしてERMに関する知見がより一層求められるようになってきており、再保険は終わりなき学びが求められる知的七種競技ともいえましょう。

 


なるほど。そうした役割があったとは。ところで、曽我さんのLinkedInを見ると、Global Reinsurance Forum(GRF)にも関わられています。これはいったいどんなものなんですか。

 


Global Reinsurance Forumには、トーアも含め世界の主要再保険会社13社が参加しております。再保険業界の立場から規制、税政、会計制度について、IAIS(保険監督者国際機構)、EIOPA(欧州保険年金監督機構)といった国際機関に意見を提出し、業界の健全な発展を推進していくフォーラムです。各再保険会社の社長がメンバーとなっており、私は補佐役のアソシエイトメンバーとしてGRFに参画しておりました。フォーラムでは北米、欧州のアソシエイトの方々と議論を進めていくので、時差なども含め大変な部分もありましたが、さながら再保険のG20に参加しているような感もあって、非常に有意義な経験でした。

 


 

そうなんですね。再保険業界は非常に国際的ですね!そして、現在はエンタープライズリスクマネジメント(ERM)、全社的なリスク管理に関わってるということですが、どんなお仕事をされてるかを教えてください。


 

ERMとは企業全体に関わる戦略的リスク管理です。あらゆるリスク、すなわち保険に関する引受リスク、資産運用に関するリスク、オペレーショナルリスクですね。これらのリスクを統合的に管理し、例えば台風とか地震が来た場合に資本にどの程度の影響が出るのか。もしくはリーマンショックが起きたような場合に、どういうふうに我々の会社の健全性に影響が出てくるのか分析を行って、将来の経営の意思決定に役立てています。

 

ダウンサイドのリスクコントロールのみならず、アップサイドのリターンとの兼ね合いをどうするか、いうならばリスク・リターンでみた収益性なども含めて、企業価値を最大化するために資本をどのように有効活用すべきかといった議論をグループ内で推し進めていきたいと思っているところです。


 

リスク、といって思いつくのは、去年は世界中で自然災害が頻発しましたが、今後影響はどんな感じで出てくると思いますか。


最近は地球温暖化の影響でしょうか、世界各地において自然災害が頻発化していますね。自然災害についてはいわゆるモデリングを使ってシミュレーションしていくんですけれども、温暖化によって気候変動が頻発化するというトレンド自体の変化をどうモデルにおり込んでいくのかはタフなテーマです。

 

一方、もう少しマクロな視点で見ると、保険、再保険業界はより一層、過去の経験則が通用しない、不確実性が増していく時代になるのではないかと想像しております。例えば、サイバーリスクの場合は、既に過去のデータがある自然災害と違い、いつ、どれ程の被害が起こるのかという予測ができないため、保険料やリスクをどう評価していくかは、非常にチャレンジングであります。


 

まあ、セキュリティーアタックについては、ハッカーの気分次第みたいなものであったりしますしね。


そうですね。最近は車の自動運転も随分進んできました。だから自動車事故自体は少なくなっていくと思います。しかし一方で万一自動運転の車がハッキングされた場合の損害の扱い。その損害の責はどこになるのかとか。

 

それから生命保険の分野ですね。人間が長生きしていくことに伴う生命保険のリスクの行く末はどうなるか、これらはまだ我々が経験したことのない世界です。答えのない不確実な未来にどう対峙するか、まさに人間の叡智が試されるような時代ですが、逆にそこには新たなビジネスチャンスがあるとも捉えております。

 


ボーダーレスなグローバルエリートに憧れて

 

さて、MBAの話になりますが、そもそもどのような動機でIEのGlobal MBAを目指されたんでしょうか。


今の会社では海外出張の機会が多々あり、そのときに現地の関係者と話したことで刺激を受けたんです。彼らの多くが国境をいとも簡単に超えて働いてるんですね。

例えば、「以前は日本で働いていたけれど、今は香港にいる。もうすぐ息子が小学校に入るんだけど、子供の教育のためにはシンガポールがいいと思うから、2年後にはシンガポールに行くよ」と。まるで東京、大阪を行き来するかの如く、自分の意思でここで働くと決め、なおかつそれが実行できる。国境を越えた高いEmployabilityに感銘を受けましたが、そんな彼らは少なからずMBAを持ってるんですね。だから彼らのようなグローバルエリート達と渡り合うには、MBAは必要最低条件だと思いましたね。

 

ただ、MBAとはいっても、今の仕事もやめたくないので、どうしようかと悩んでいた時期が結構ありました。仕事は続けたい、しかも海外トップスクールのMBAはとりたい。海外MBAを諦めては、でもやっぱり諦めきれない。

 

そんなある日、雑誌に仕事を続けながらMBAが取れるIEビジネススクールのBlended Programが特集されていて、これだ!これしかない、と。しかもクラスの参加者の95%が色々な国から来る留学生で、高いダイバーシティを有していることも非常に大きな魅力になりました。


 

でも曽我さんの場合だと、Executive MBAはお考えにならなかったんですか。IEにもありますが・・・。


EMBAも考えはしましたけれども、より実務レベルで、多国籍軍で構成されるグローバルタスクフォースを指揮するスキルを身につけたかったんです。

 

先日もシンガポール、クアラルンプール、香港をオンラインで結んで現地のマネージャー以下を対象にWebinarを開催しましたけれど、私が想定している相手とGMBAのクラスメイトのプロファイルが一致していたので、ハンズオンで私自身のリーダーシップ能力を高めることができるなと考えて、GMBAを選びました。

 


さらに、ダイバーシティが決め手になったということですが、曽我さんのキャリアの中で、既に国際経験は豊富だったはずなのですが、そこでまた敢えて追求するという。なにか特別なこだわりがあったんでしょうか。


実は大学時代、学生寮に入ってたんです。そこには海外からの留学生も多くいて、刺激を受けました。

その一人、マレーシアの留学生が20歳そこそこですけども、聞いたら「マレー語と英語と広東語と北京語と日本語がしゃべれる」と言うんです。しかも日本人と一緒に日本語で授業を受け、なおかつ成績も日本人を差し置いてトップの成績を取っていて。そんな彼に「将来どんな仕事するの?」って訊いたら、「僕は将来マレーシアに帰国し、日本で学んだことを活かして、母国の経済発展に貢献したい」と、その国家レベルのスケール、使命感の強さ、視点の高さにガツンとやられましたね。私は、当時は、どんな仕事に就こうか、やっぱり給料の高い会社だと嬉しいな、なんて考え方だったものですから、本当に衝撃を受けました。

その時以来ですね、異なる価値観や考え方を持つ人との出会いが、自分に新たな気づきを与えると強く感じるようになりました。

 


 

そこから社会人経験を相当積まれてからIEに入られたわけですが、どうでしたでしょうか。


これまた入ってみてびっくりしましたね。もう本当にカオス。

クラスメイトの中には弁護士だったり医者だったり動物学者だったり、カジノ経営してますとか、国際協力関係の人たちとかがいて、逆に「なんであなたたちMBAに来てるの?」って訊いたら、自分たちの専門に加えて、マネジメントに関するコンピテンシーを強化していきたいと。

 

スペインのサグラダファミリアに似ていますね、IEのプログラムって。日本ですとビルを建てるときに設計図を細かく決めて、それに基づいて建設をしていくと。当然、地震とかにも強くできていていいんですけれども、逆にすでに何ができるかがわかっているから、まあ当然といえば当然で。

 

逆にサグラダファミリアはガウディが描いたたった1枚のスケッチに基づいて、各分野のエキスパート達が100年以上かかってその建設に取り組んでいる。型にはめない。はまらない。最終的になにができるかわかんないけど、みんなで力を合わせて最高のものを作ろうぜっていう雰囲気がIEにはすごくある。だからIEはさしずめMBA界のサグラダファミリアっていっても過言ではないと思いますね。笑


 

良い称号いただけました!笑


それからテクノロジー。GMBAはBlended プログラムだから、通常のMBAより、少しは楽かなと思っていましたが、とんでもない。毎週のビデオカンファレンス(VC)では、実際の教室にいるのと変わらず、全く普通にプレゼンテーションやディスカッションが行われ、そこでの発言の質、授業への貢献度が成績に直結します。

 

また科目によってはオンラインでテストも実施され、回答提出後に即座に点数がでるんです。グループワークもこれまた容赦なくアサインされるわけですが、そこはそこでGroup Meeting RoomがWeb上できっちりと用意されており、メンバー同士PCカメラをオンにしてグループワークを進めることができます、というか、やらざるを得ないですよね・笑。

 

時差もあるから、実際には結構大変なんですけどね。でもそのIEの先進的なテクノロジーのおかげでMBAの臨場感、醍醐味をリアルに体感し、楽しむことができました。IE MBAにはTech Labもありますし、Wow Room(Virtual Class Room)も導入されてきていますから、多分IEにはすごく日本人の留学生も年々増えてきてるんじゃないですか。


 

そうですね。おかげさまで注目を浴びて、受験生が増えてきてますね。ところで、逆にIEに行ってなかったら、今頃どうしていたと思いますか? 


あまり考えたくないけど、行ってなかったら多分、常に他人の軸、他人の評価を気にしていたと思います。今はMBAを終えたことで、より長期的かつ俯瞰的に物事を捉えられる、自分の軸ができました。

 

夢は諦めなければ必ず実現すると非常に強く感じています。仕事をしつつもあんな過酷なプログラムをこなしてきた。今後どんな困難があっても、乗り越えていけると自信がつきましたね。そして今後は自利利他の精神に照らし、自分が学んだことを社会にいかすために何ができるのか。また10年後、30年後、50年後を見据えるときに自分のレゾンデートルをどう証明していくのか、これまでよりも高い視座を持つようになりましたね。


 

よかったです!思い出としてはどんなものがありますか。


いろいろありますけど、いつも科目最後のVCのエンディングで、PC上で全員で記念撮影するのが思い出に残っています。授業の最後に、みんなPCモニターのカメラをオンにして、クラスメイトに会えるのが楽しみでしたね。

 

今はWow Roomがあるから、ちょっと違うのかもしれないけれど。Term1とかでは、みんな真面目な顔をしてモニターに映っていたのですが、段々プログラムが進むにつれ、ハロウィン風に変装して出てくる人とか、子供と一緒に手を振って映る人とかもいて、世界中の級友とのつながりを実感できる大切なひとときでした。

 

GMBAの場合は、実際にクラスメイトに会えるのはオンキャンパスで授業に参加するF2Fの期間しかなく、限られた時間しかないのですね、だからこそ、MBAライフの一瞬一瞬っていうのをみんなすごく大切にしていたと思いますね。時間を大切に、今を生きる大切さというのをMBAで実感しましたね。

 

人生は1年1年の積み重ね、そして1年は日々の積み重ね、1日は1時間、1分、1秒の積み重ね。それらの積み重ねが人生であること。だとすると一度きりの人生、120%全力投球するしかないですよね。


 

曽我さん、もうお子さん大きいと思いますが、GMBA中はご家族との時間はどんな感じで確保されていましたか?


確かにVCの時間がちょうど土曜日の夜6時とか7時ぐらいから開始だったんで…。そこだけはちょっと一緒に食事が取れなかったですが、日曜日はなるべく家族と一緒に、丸一日は無理でも半日使って近くに遊びに行ったり、何とか両立できたかなと。

 

でも逆にちょうど娘の受験と重なっていたので、親が勉強して優秀なクラスメイトと切磋琢磨しDean’s List(成績優秀者)を取ったりする姿を見て、少なくとも自分も頑張ろう、って感じてくれてたら親冥利に尽きますね。また、私のMBAライフを多方面でサポートしてくれた妻には感謝多々です。

 


自分の軸を大切に

 

これからIEやMBAを考えている方へのメッセージをいただけますでしょうか。


私もそうでしたけれども、MBA受験にはいろんなハードルがあります。もう本当にさまざまな課題が課されてきて、その多さに人知れず諦める人も少なくないのかなと思います。でもやっぱり自分の思いは大切にしていただきたいですね。

 

さっきの車の話じゃないですけど、自分の人生、自分がドライバーとなって車を動かさなければなにも景色は変わらないよと。またどんなにお金を払っても、時間だけは取り戻せない。

 

今から10年後の自分もしくは自分の人生の最後の日を想像したときに、今の自分になんと声をかけるのか?それを考えて、悔いのない人生を過ごしてほしいなと思いますね。

 


IEでは最近よくStudentのことをProtagonist=主人公っていう言い方をしています。それぞれに過去があって、今勉強してて、その先に未来がある。このストーリーの主人公っていう考え方です。

では、最後に曽我さんがこれからやりたいことを教えていただけますでしょうか。

 


今でも覚えているのが卒業式の際にいただいたメッセージで、英語なんですけど、Graduating from this school, you’re the leaders, opinion makers, and problem solvers of tomorrow. という言葉が今も脳裏に深く刻み込まれています。これに対する答えっていうのはなかなか簡単ではないんですけれども、突き詰めれば自分がなにかしら会社の役に立ち、ひいては社会の役に立てる人間になるっていうことに他ならないのかなと思っています。最終的には微力ながら、日本っていう国を元気にすることに貢献していきたい。

 

80年代の日本はジャパンアズナンバーワンって言われて、世界から尊敬の対象として見られていた。それが90年代になるとジャパン・パッシングといわれ、それから最近、ジャパン・ナッシングとなり、人によってはジャパン・ミッシングっていうような人もいます。でもだからといって、日本が駄目かっていうと決してそんなことないと思うんですよね。グループワークを通じてやっぱり全体感をもって、チームワークを大切にする点は非常に日本人が得意とする領域なのかなと。クラスメイトからの360度フィードバックでも、そこは高く評価いただいたんで、その強みをうまくいかせば、まだまだ世界と渡り合っていける。

 

実際、私も随分IEの卒業生に刺激を受けてます。ブラジルでベンチャーキャピタルの中山さん、ベルリンでアクセラレーターを起業した矢野さん、スパイスアップの豊田さんとか、世界で活躍してる方の話を見聞きすると、サムライ・スピリッツを感じます。今度は私も何らかの形で、人様に与える側になりたいと思っております。

 

昨年の話ですが、今の部門に異動の際には、部下の方々から「曽我さんの、現状に満足せず、常に新たなことにチャレンジする姿勢、最後まで諦めずに共に解決策を見つけ出す粘り強さを尊敬し、見習っていきたい」と書かれたThank you カードを図らずも頂戴しました。本当は、こちらこそ優秀な彼らに感謝したいくらいなのですけど。

 

でもこのように、私自身がなにかしら、仕事でもプライベートでも誰か一人でもほかの方に刺激を与え、その人がさらに他の人にも刺激をあたえて、そんな一隅を照らすの精神で、最終的には日本社会全体が元気になれば本望ですね。

 


 

曽我さん、やはり優秀な成績でご卒業されDean’s Listってすごいことですし、既にあとに続く日本人学生に大いに刺激を与えていますよ!ありがとうございました。