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卒業生インタビュー:熊谷光治さん (IMBA2015)

 

レストランやホテルで出てくる美味しい食事の背景に常に存在する厨房機器。その業務用厨房機器メーカー、フジマック。グループ全体で1200名以上の従業員を擁す東証二部上場企業の社長に2018年4月に就任した、IMBA卒業生の熊谷光治さん。フジマックのクッキングライブ会場でお話を伺うことが出来ました。

 

フードビジネスを支える厨房機器

 

今のお仕事、そしてフジマックという会社について教えてください。


フジマックという業務用の厨房機器を作っている会社です。業務用のキッチンですね。

厨房はいろんなところにあって、ホテルや病院、飲食店、従業員食堂、意外なところでは、デリバリーピザ屋さん、船、コンビニの機械とか。1964年、前回の東京オリンピックの前に、ホテルニューオータニ様が西洋式の大型厨房を日本で初めて作ることになり、私の祖父が受注したんです。

それからホテルの西洋式厨房の納入実績がついて、正確に計ったわけではありませんが、日本のラグジュアリーホテルの70%くらいは取引をさせて頂いていると思いますよ。


 

機器のデザイン、見た目もとてもスタイリッシュですね。ラグジュアリー・ホテル、、ということは、全体的にハイエンドということですか?


ハイエンドというよりも厨房の設計や製品のカスタマイズなどにも柔軟に対応するので、こだわりの厨房を作られるお客様が多いです。

特注比率は業界でダントツですね。それから海外製品を輸入して、それを納入するっていうこともやっています。

 

お客様のニーズを聞いて、その専用の機械を開発製造もしています。機器の搬入、施工もして、アフターサービス、メンテナンスまで含めてトータルでサポートをしています。


 

スタートがそこからになるわけですね!知りませんでした。施工となると、建物の図面見て、電気の配線などの知識も必要ですよね。


そうですね。電気とかガスの直接施行はしませんが知識は当然必要です。排水やグリストラップの設計、床工事なんかもやりますよ。

 電気・ガスなどは詳しい社員が多いです。


 

御社のプロダクトの特徴、差別化ポイントは?


この業界は専業メーカーさんが多いんです。熱機器だけ作っているとか、冷機器だけ作っているとか。

熱と冷を両方やっている会社がほとんどないので、そういう意味では差別化していますね。

製造機種の数は業界で圧倒的に一番だと思います。

 

あとは施工という面では大規模のホテルや、衛生管理が厳しい病院厨房のノウハウが蓄積されているのも強みですね。特に大型プロジェクトに強みがありますが、実は小規模店舗でもナショナルチェーンのように店舗数が多いお客様から、オペレーションを改善する特注製品開発なども引き合いを頂いております。


 

新規で建物が建つときに、一緒に厨房を施工するパターンが多いんですか?


そうですね。食べるところが全くない建物は、今はオフィスビルでも少なくなりました。

例えば、ホテルが新しく建つ場合、建設会社さんや設計会社さんも厨房設計の細かいことまではよく分からない。どのぐらいのスペースがいるのかとか、そもそもどんな機器が必要なのかとか、ということになるので、我々のような厨房機器メーカーに依頼が来ます。

 

あと病院の場合は調理方法も特殊なものがあります。人手不足なので現場で人を確保できないとなると、給食会社さんのセントラルキッチンで作った料理を急速冷却して、その料理を配送して現地で再加熱する、という方法があります。

 

今非常に導入が進んでいるクックチル、ニュークックチルなどの提供方法で、専門の設備と提供ノウハウを持っていないとできないんですが、フジマックは近年その施工実績が非常に増えているので、新しく導入したいお客様にアドバイスをしたり、図面を引いてあげたりしています。

 


 

新規参入障壁としてはかなり高いですね。専門知識をいろんな分野で持ってないといけないですから。


そうですね。大型プロジェクトは工程管理や建設会社と打ち合わせとか、結構専門知識が必要なんです。そのノウハウをうちはかなり持っていると思います。施工もできるプロフェッショナル人材が多い。


 

海外展開についてお聞かせください。


中国・東南アジアを中心に輸出しています。業界の中ではかなり早く、1982年からシンガポールに進出しています。

 

シンガポールをHQとして、タイ、ベトナム、カンボジア、グアム、台湾、北京、上海、香港。

 

それから工場は、日本の福岡のメイン工場に加えて、上海とホーチミンにもあります。上海の工場は、現地の販売子会社と力を合わせて生産も増えてきていますね。


 

海外展開も製造だけでなく販売もしているのですね!テクノロジー面で、この業界の応用度はどういう感じですか。


デジタル産業なんかとは違って、調理手法の煮る、焼く、炒める・・・などは大昔からそれほど変わってないんです。

ただ調理のオペレーションは進化していて、例えばフジマックのバリオクッキングセンターは、省スペースで煮る、焼く、炒める、揚げる、圧力調理が一台で全部できるので、日本の狭い厨房スペースの中の機械としては非常に優秀です。それにパワーが非常に強いので、常温から200度まで2分で達しますからね。調理における予熱(調理したい温度まで上げること)が完了するまでの時間を減らせるので調理時間が短縮して、提供時間も早くすることができます。

また温度コントロールも非常に正確なのでミシュランの星つきレストランや、ホテル、病院、エアラインケータリングなど様々なお客様にご満足頂いています。

 


 

そうなんですね!調理のオペレーションの進化の背景とは?


人口が減っているのも影響して、調理師になろうという人材も減っているようなので、調理師学校も設備を充実させて、最新の機械を導入してきていますね。また、料理はどうしてもまだ手作業が多いので、働き方改革の関係と調理師不足もあって、非熟練の作業者でも調理ができるようなシステムや機械も求められています。このバリオクッキングセンターはボタンをポチッと押したら簡単に卵焼きとかできますよ。例えば、「卵焼きをちょっとかき混ぜてください」って指示が出るんです。「今、巻いてください。」とか。巻くのも簡単な巻きやすいアクセサリーがあるので、僕がやっても簡単に巻けるんですよ。

 

他にも例えば、ローストビーフとかは、オーブンの中に入れて調理を始めると、蓋を閉めた後の状態がよくわからなかったんですよ。昔はシェフが途中で熱いオーブン中に手を突っ込んで触って「このぐらいの堅さならもう少しだな」とか「このぐらいの火傷だったらもうちょっと火力強めだな」とか、そういう判断基準が多かったと聞いています。プロしかできないですよね。今のコンビオーブンという弊社のオーブンは芯温センサーがあって、針で食材を刺すと中の温度を拾ってくれるんです。中心温度が何度ぐらいになったらちょうどいいですよ、って教えてくれるので、非熟練の調理人が作っても、おいしいローストビーフが作れる時代なんですよね。

熟練調理人にも満足いただけ、非熟練の調理人でもおいしい料理ができる、そういうものが求められていますね。

 


省スペースで多様な調理方法ができるバリオクッキングセンター(写真提供元:株式会社フジマック)
省スペースで多様な調理方法ができるバリオクッキングセンター(写真提供元:株式会社フジマック)

経営者と話したくて銀行員に

 

ところで現職の前のキャリアについて教えていただけますか?


僕は新卒で大手都市銀行に入り、5年ほど働いていました。育った環境から、経営について漠然とした憧れはありました。だから経営者たちと話をしたい、仕事をしたいという思いが学生の頃からありましたね。

 

所属していた法人営業部では成績も良かったので100億から1000億円ぐらいの年商の上場企業を複数担当させてもらえました。経営者の方々と直接お話をして、相談をうけたりとか、良い経験でしたね。普通の会社にいったら頻繁に会うことなどまず出来ません。まさにそれをしたくて銀行に入行したんです。不良債権なんかも日経新聞の裏面に出てくるような案件も対応して、非常に勉強になりました。周りの方の助けもあって、うまく処理を終わらせることが出来て、表彰状をもらって。そしたら良いお客様をいっぱい担当できるようになったんですね。良いお客様もらったら当然業績があがるんで、青山の営業部のときはいつも成績優秀者でした。色々なめぐり合わせで運がよかったんだと思います。

 

そこで5年間ほどやった後、紆余曲折を経てフジマックに入社しました。OJTが終わった頃に、社内で選んでいただき海外留学に行く機会をもらってアメリカに1年ほど行っていたんです。英語が本当に苦手だったのですが、1年間でTOEIC550点からIELTS7.5まで上げました(笑)。

 

それでビジネススクールをいくつか受けて、アントレやファミリービジネスを勉強したかったのでIEに決めました。他に検討した学校もノースカロライナやバブソンといった学校でしたね。

 


 

去年の4月に社長就任でした。IEで学んできたことは今の業務にどう役に立っていますか。


もともと純ドメなんで、アメリカ行って、その後スペインのIEで学んで、欧米両方で学べたのはよかったです。

アメリカと少し違うヨーロッパのスタンスも勉強できました。特にうちはヨーロッパの取引先が多いんです。

機械はドイツ製やイタリア製がやっぱり優秀で、その商談先は当然ヨーロッパ人で、基本的に英語で商談しますので、IEでのMBAの経験がなかったらとてもできなかったですね。

 

あと、ファミリービジネスの同級生も多かったですね。あまり皆最初から表立っては言いませんが。色々な国の似たような境遇の生徒と授業を受けられたのは財産になっています。

うちは上場企業で、本来のファミリービジネスとは少し違いますが、現在まで創業家が経営をしています。周りとは違うレベルで仕事に勉強に頑張らなければ、社員からも認めてもらえませんし、マーケットや株主の方々にも説明がつかないと思っています。


日本と違う欧米の企業に対する価値観を知った

 

IEでの学びの中で、新たな発見はありましたか?


IEの授業で印象に残っているのは、ファミリービジネス(選択科目)のCristina Cruzですね。

僕は日本のファミリービジネスの価値観は、アメリカとは違うのはなんとなくわかっていましたが、ヨーロッパは長い歴史のブランドも多いし、近しいものがあるんじゃなかろうかと思っていました。

フランスに、200年以上継続しているファミリービジネスだけが加盟できるエノキアン協会っていうのがあるんです。その協会の中で一番古いのが、日本の西暦718年創業の某老舗旅館さんで、最初の授業でその企業がテーマになりました。1300年間代々続いている企業だけれども、1300年間で大きく成長しているわけではない。ではこの会社についてどう思うか、そんな授業でした。

日本人からすると1300年続く老舗企業は、尊敬に値する素晴らしい企業と思うじゃないですか。そういう意見をクラスでいったんです。でも、アメリカ人はピンと来ない。そしたらヨーロッパ人もやっぱり反応が悪いんです、その選択科目ではほぼ全員がファミリービジネス出身者なのに。

ビジネススクールだからかもしれないけど、授業で僕以外は全員、「企業は成長してこそ価値がある」と。


 

バッサリですね・・ ・。


僕は、1300年間生き続けるっていうのがどれだけ大変なのか、20年か30年しか生きてないんだからわかるわけねえだろ!という話をしたんですけど通じなかったみたいです(笑)。

 

日本の場合は成長特化企業だけでなく、安定収益や創業年月などにも価値や美学を感じます。でも彼らにとっては何年の間にどれだけ成長したのかっていうのが価値基準だと言っていました。

 

授業の最後には、いろんな価値があるよねっていう結論に終わるんですけど、日本とヨーロッパやアメリカの価値の違いは大きく感じましたね。


 

なるほど。これも多様性ですね。課外活動での思い出は?


 

やっぱりジャパンナイト(日本の文化を紹介する学生主導のイベント)ですね。僕が相撲レスラーの格好をして、周りに同級生がいっぱい集まってくれて、すごく良い思い出ですね。


 

学業に、課外活動に、色々アクティブだったようですね!これからやりたいこと。今後の目標は。


いろいろチャレンジしていきたいなと思っています。

会社には厨房や料理のプロフェッショナルがいっぱいいます。日本ナンバーワンの人材、本当にいっぱいいるんですが、そういう人材を今よりもっと有効活用できる余地があると思うんです。

 

「フードビジネスのトータルサポート」という経営理念ですが、機械のIT化やIoT化、ロボットだったり、将来的に色々な食の世界をサポートができるはずです。現場が困っているならば、それを助けるソリューションを提案するのが僕らの役目、今は原田くん(IE同期)に手伝ってもらいながら、そんなことにもチャレンジしています。


 

最後に。IEを目指す人にメッセージを。


IEは変な人がいっぱいいるんですよね。僕の同期なんか変人ばっかり。前後の代の人も変わった人が多いですけど。(笑)

だいたい、学長のSantiagoだって、入学式で「Unusual school with unusual people」とFTに言われたって言って、喜んでいましたからね。(笑)

 

変人っていうのは悪い意味ではなくて、専門性があったり、色んなことに挑戦したり、色んなことを作り上げる力を持っている人だと僕は思っています。間違いなく僕が一番普通の人です(笑)

 

そんな人達と付き合うと刺激がありますね。よくMBAでStep out from your comfort zoneっていいますけど、まさしくそれを体現しているコミュニティーという気がします。これから受験する方も日本の社会にどっぷりつかった方々が多分多いと思いますから、強制的にstep outさせられる環境に身を置くのは素晴らしい経験だと思いますよ。

 

Smart studentがたくさんいるUSのスクールもいいと思いますし、IEみたいに変な人と頭良い人がバランスよくいる学校もいいんじゃないかと思います。アメリカはいつでも行けますけど、スペイン行かないですからね。

 


 

そうですね。人生の中でスペインに1年住むっていう経験は、なかなか貴重ですからね。ありがとうございました。