シリコンバレーを追い上げているといわれ、世界中から起業家が集まりいまやスタートアップの聖地と呼ばれるベルリン。
そんなベルリンのスタートアップ界隈でInteracthubを立ち上げた矢野さん。日本に一時帰国した際にお話を伺うことが出来ました。
ドイツで見られる多様なスタートアップのスタイル
ドイツのスタートアップシーンと、今やってるお仕事について、教えてください。
いわゆる分散型時代の企業と起業家のコラボレーションのための、仕組みだったりとかプラットフォームの開発を走りながらいろいろ修正してやってます。今後起業家の形というのも変わってくると思います。
「マイクロ・アントレプレナー」って僕は言ってるんですけども、今までのシリコンバレースタイルの大きな投資を受けてドカンといくっていうスタイルから、いろんなインフラも安くなってきてるんで起業家が少ない資本でより大きなインパクトを出して、自己資金で面白いことをやってそこそこ結果を出していくというようなスタイルがどんどん増えていくと見てます。
ベルリンにいると、そういうタイプの起業が非常に多い。資金調達して、ドカンとやるスタイルだけじゃなく、色んな起業のスタイルがあります。それに実際エクイティ投資を受けられる起業家はごく一部です。
実際には自己資金や借り入れやクラウドファンディングやICO/STO等いろいろありますよね。
ビジネスドメイン的にはどんなのが多いですか?
ヨーロッパにいると、アートとかクリエイティブ領域の方面で起業する人も多く、同時にブロックチェーンとか仮想通貨領域は次のステージに入って来てる気がしていますね。
どんどん価値観がPay forwardになってきている気がします。つまり直接の利益追求ではなく、正しいことを無償ですることでいずれ利益がまわってくるという考え方で、それを公共財やビジネスとして実現するための仕組みづくり、プロトコル。
それが、次のビジネスチャンスになると僕は見てます。ただ同時に、あんまり先端方面を目指してやると今度マネタイズが難しくなる。だからうまく、地に足をついた部分と、それからちょっと先を見越してやる部分とのバランスを見ながらって感じですね。
マイクロ・アントレプレナーっていうのは、スケール感はあんまり目指してないってことなんですか。
いろんなパターンがあると思うんです。一時期ベルリンだと、ロケットインターネットって会社が2015年ぐらいまでは一番存在感があったんです。スタートアップの製造工場っていってたんですけど、要は、アメリカの成功モデルをパクって、アフリカや東南アジア等の新興国で急展開してスケールしまくるっていうモデルだったんですよ。
それがちょっと落ち着いて、その反動っていう感じもあるんですけど、それ以外でもいろんなやり方、別に小さくてもいいやって考え方もあってもいいのかなと思いますね。
そういう考え方が広まったきっかけは何だったんですか?
理由の一つにブロックチェーンを含む分散化システム上になりたつ新しい世界観を目指す企業や集団、例えばOcean Protocolとか地元では有名ですけど、GAFAMの次の世界観を目指す人達が世界中からベルリンに集まってきて、これまでのルールでやらなくなってきたというのがあると思います。
言語化するのは難しいですが、どんなスタートアップが最近熱いとかより、このうねりに意味があると思ってます。たとえば、Ocean Protocolはベルリンベース、シンガポール法人ですが、MITともつながっていて分散型Data Exchange Protocolというものを開発しています。僕の解釈では個人情報をIT企業でなく個人がOWNし、マネタイズするためのプロトコルです。
データのオーナーをIT企業から個人に戻し、どこで利用されたかブロックチェーン上で管理したり、利用された分が個人オーナーに金銭的なRewardがされれば色々なビジネスチャンスが生まれるはずです。その様なルールの上では企業を大きくしなくても価値をだせるのでは?とみんな考え始めてるのかなあと。
矢野さんのInteracthubという会社は企業と起業家を結びつけるベルリンベースの会社ですね。起業家たちと日本の大企業のコラボ。
大企業って特殊なカルチャーがあって、スタートアップとかそれこそマイクロ・アントレプレナーとできるのかな?っていうイメージがあるんです。
例えば、大企業が取引に求めてくることって、日本に少なくともレンタルでもいいからオフィスがなきゃ駄目とか、日本語ができるBDが日本にいなきゃ駄目とか。そうした制約をかけてきたりということを聞きますが、どうですか?
多分それは、日本に限らず国際ビジネスやろうとするとなんか絶対そういうのが出てくる。難しいところですね。小規模でやってるうちはそんな気にならないんですけど、規模が大きくなるとどんどんそういうところのハードルが出てくるのかなっていうふうには思ってます。
そのハードルにあたったとき、マイクロ・アントレプレナーみたいな人たちを助ける仕組みみたいのはあるんですかね。
例えば日本とヨーロッパとかだと、あまりまだ現状なくて。逆にこれから作っていくところなのかなと思ってて。
例えばベルリンに限っていうと、結構そういったコラボレーションが進んでて、アクセラレータっていう言葉がすでに正しいかどうか分からないですけど、そういうグループがいて、例えばKatapult:nowって人たちもそうなんですが、大企業とマイクロ・アントレプレナーをこうコラボさせたりする謎のフリーランス集団みたいのがいます。
元マッキンゼーだったり、起業家で成功した人だったり、メディアの人だったりドローンの専門家だったりがチームになって。
わかりやすい例だとメルセデスベンツが、そういう外の起業家とかデザイナーとかエンジニアとかをコラボさせてできたのが、ちょっと古いですけどマイタクシーというドイツ版UBER的な配車サービスだったりとか。
あとはボッシュっていう自動車部品の世界的な企業ありますけど、あそこの社内ベンチャーから立ち上がって、ベルリンやパリで展開する電動スクーターシェアリングのCOUPっていう会社が立ち上がったりとか。
大企業の新規事業開拓チームと、外のいろんなスペシャリストが混ざって事業創造する。成功してるパターンが結構でてきてますね。
日本でもそのパターンでの成功の可能性ありますか?
いわゆるシリコンバレー的なモデルと違って、産業構造がドイツは日本と結構似てるところがある。製造業中心で。そういうやり方っていうのも、日本でも増えてくんじゃないかなと思ってます。
日本でも社内アクセラレーターとか社内起業家みたいな人たちっていうのが、どんどん会社の中で増えてきてる感じがするんで今後活性化していくのかなって思います。いわゆるオープンイノベーションだと思うんですが、ベルリンでは非常に盛んでうまくいってますね。
うまくいっているコツとは何だと思いますか?
日本との違いは大企業と起業家、あるいは小企業のの関係が、いい塩梅に利用しあっていて立場的にはフラットなんです。とくに小さい側が強気というか、もちろん、資金面などで大手が有利にあったとしても。
契約の概念の違いやリーガルリテラシーによるところも大きいと思います。
日本の場合は大企業が地主的な役割で小企業が小作人的というか、無意識なあるべき立ち位置がある気がします 笑
とはいえ最近は日本もどんどん変化してますので、これから楽しみですね。
日本企業でも新規事業チームとか、ちょっと今までと違う形で働けるようなチームできたりとか。既存に縛られない。それはいい傾向かなとは思います。
IEへ、そしてベルリンへ
そんな最先端のベルリンのスタートアップ界隈で生きる矢野さんですが、これまでのキャリアについて教えてもらえますか?
ほんとただの成り行きだと思います。新卒の時とか全然会社受かんなくてですね。で、いろいろ就職活動苦戦した記憶があって。
もともと、あんまりサラリーマン向きじゃなかったのか分からないですけど。それで、最初小さい会社を転々して。
で、たまたまセールスフォースっていう会社を2007年に受けてたまたま運だけで入って。当時はSaaSとかクラウドコンピューティングが先駆けで伸びる手前ぐらいの位置にあって、コンセプトがすごく面白いなと思って。
会社が伸びていくと、自分の市場評価も便乗して上がっていくんで、やっぱり伸びる会社で働くことの面白さみたいなのが最初に経験できた。その後、Google入ってクラウドコンピューティングの面白い時期を経験しました。
で、Googleの時にIEでGMBAやったんですね。
はい。当時の上司がスタンフォードのMBAで。興味があって、最初アメリカの某大学のプログラムを調べました。GMBAと似たようなフォーマットなんですが、もう少し、たくさん行かなきゃいけないんですよ。上海行ったりとかロンドン行ったりとか。で、ビデオ見たら、いろんなとこでパーティーしてるから。なんかそんなには、パーティーしたくないなと思って。笑
で、すごい学費も高かったんで、他の選択肢調べてたら、IEのGMBAを見つけてその上司に聞いたら、色んな学校で似たようなプログラムやってて、どれも知らないけどIEは知ってるって言われて。
IEは評価高い学校だったんで、実際にそのアメリカの大学よりもランキングで上だったりして。期間も短く集中プログラムですごい良いと思って、GMBAを受けました。2013年の秋ですね。
ところで矢野さんはもともと英語できたんでしたっけ。
僕、中学・大学とドイツにいてドイツ語は出来ます、と。で、英語については、実地です。ストリート英語なんで。笑
自分で独学で勉強した感じですね。Googleは半分ぐらい英語でやってたんで英語についてあんまり意識したことないですね。
だからあんまり勉強しようとか思ったこともない。僕語学って、真面目に勉強したことがあんまりなくて。
あー、でたでた。笑
笑 結構あれですか、MBA受ける人って語学がやっぱり最初にハードルになるんですか。
日本人はやっぱりTOEFLのあと1点の壁に苦しめられる人が多いですね。
ただGMBAの受験者は最初から英語で仕事をしている人が多いので、TOEFLの勉強期間は短くて済む人が多いですね。
確かにGMBA受けた人って、海外住んでる人とか多くないですか。
多いですね。日本に住んでても、海外駐在経験者とか外資系の方とか。矢野さんのクラスメートさんはどんな方たちでしたか?
そうですね。正直言うと、Googleで働いてると、サラリーマンとしてはそこそこいけてるほうだと思ってたんですけど、全然そうじゃないっていうのがすごく分かって、インパクトが大きくて。
IEの場合は自分で起業したり、いろんな国で事業やったり、パスポートも何枚も持ってたりとか。NPOベトナムで立ち上げたとか・・・。
こう、当時僕の考えてるすごいハードルの高いところにあることを、すごくカジュアルにこなしてるところがあって、なんかちょっと、何ランクか次元が上の人たちみたいな印象受けたんですよ。
実際、いわゆる有名企業で働いてる人って他の学校でもそこらじゅうにいるんですけど、GMBAの場合は圧倒的に自由にやってる人たちが多い印象があって、そんな周りにいる人たちの感覚で、自分の方向性が若干変わったかな。
会社の中で出世するとか評価を受けるとか、経験値上げてもっとステップアップするとか、そういった頭でずっと、セールスフォースとかGoogleじゃやってきたんですけど、それじゃなくて、もっと本質的に、もっと自分が直接的に働きかけるようなやり方っていうのが身近に事例がいっぱいあって衝撃的でした。
IEにいってなかったらそういった人たちと、たぶん会ってなくて、東京の外資界隈で、次どうしようみたいな感じでいたと思うんですよ。
矢野さんの言う、ストリート・エリート。
勝手に言ってますけども、でもそんな感じだと思うんですよね。笑
MBA持ってる人って、キャリア志向は高いんだけどちょっと鼻につくような感じの人が多いんですけど、IEの人ってなんかいい意味でなんか雑っていうかちょっと毛色が違うタイプが多くて面白いカルチャーだなと思って。それをあえてなんかストリート・エリートっていうふうに、ストリートスマートをかけて。
もともとすごいスペックの高い人たちが、ちょっと方向性が面白いところがユニークかなって思います。
で、そこで刺激を受けGoogle辞めて起業したと。ベルリンに渡り。結構思い切った方向転換だったと思いますけど。もうベルリンは何年目ですか。
ちょうど3年ぐらいですね。一時期、現地の会社でちょっと足場固める感じで働いてたりもしてたんですけど、その後会社始めた。
新しい起業の仕方を作っていく
これからやりたいことは?
やっぱりこう、新しい働き方っていうか、新しい起業の仕方みたいなのを、どんどん作っていきたいなというところ。いろんなものがオートメーションしていって。AI信仰者で全然ないんで、あんまり信用してないんですけども、まあ方向的にはいろんな労働がそのテクノロジーで変わっていくっていう傾向は、長い目で見るとありますよね。一部はだいぶ膨らませてるところもありますけども。笑
なんで、労働っていう価値観がもっと小さくなって、価値創造の仕事の割合っていうのがどんどん増えてくと思ってて。大企業もみんなやろうとしてることって、どちらかというと会社を小さく動かしやすくしてるような感じがして。
Googleとかでもアルファベットとかつくって事業会社を子会社化して分散してって感じがあるじゃないですか。ああいうのが随所、日本の大企業とかそうなっていくんじゃないかなと。ダウンサイズしていって。
今もベルリン中心に仕事してても、結局仕事で関わる人って、いろんな場所に分かれてて。最近たとえば、中山さんとかともたまにミーティングとかチャットするんですけど、住んでるのブラジルじゃないですか。でも結構、今アイスランドいますとかカンボジアいますとか、いろんなところ行ってるんですよ。笑
そうですね。笑
で、僕もまあそれなりに移動するし、会社やってる人たちっていろんなとこにいて。
孫泰蔵さんが前記事で言ってたけど、コワーキングスペースを無くして、もう全部リモートでやろうみたいな、そういう動きとかがあって。ロケーションっていうのもどんどんフリーになっていくでしょう。で、今いるベルリンのコワーキングスペースも、どちらかというとリモート会議室の方が充実してるみたいな感じで。ブロックチェーンの会社しか入ってない場所なんですけども。ブロックチェーンの会社って、法人が、要は都合のいいところ、例えばジブラルタルとかリヒテンシュタインとかマルタとかにあって、チームがベルリンにいるアメリカ人とか、開発拠点がウクライナとかロシアにあったりして。結構分散してるケースが多くて。で、人数もそんなにみんな多くないので、一拠点の一つの文化にまとまらず、いろんな国の人が、いろんなロケーション跨いで仕事していく。そういう形になっていくと思うんですよね。
最近エストニアのe-Residencyとかもそうですけど、マルタとかエストニアとか、起業家もああいった法人たてやすいとこで会社作ってロケーションフリーでやってくっていうスタイルが、今後増えていくんじゃないかな。
僕もエストニアに会社つくった経験あるけどオンラインで190€払ったらすぐできますしね。慣れるといろんな手続きが超簡単 笑
最近はBitnationというデジタル仮想国家のパスポートも作ってみました、彼らのXPATトークンて通貨買って 笑 何に使えるかわからないですけど。
日本だとそういうのが実例としてあんまないんですよ。だから日本来ると、自分の言ってたことが、すごくなんかうさんくさく、聞こえて。
笑 日本もこれから変わっていくんじゃないでしょうか。 さて、最後に矢野さんにとって起業して自分でやっていくことで必要なこととは。
起業って、なんかわらしべ長者みたいなもんだと思ってて。最初のちっちゃな種を、ちょっとずつ実績を出して少しずつ大きなものに変えていくっていう作業に近いかな。だから一個一個の小さなチャンスをものにしていくことで、ステップアップができる。まあ今までもそうだし、たぶんこれからもそうなんじゃないかな。
小さなことをおろそかにしない、っていうのがすごく大事ですね。
あと自分独自のものさしをもつこと。一般常識の範囲のものさしでしかものが見れないと、怖くて何も動けなくなってしますからね。