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Start-up Lab体験記 (IMBA Jan 18 Intake)

2018年1月入学、IMBAプログラムの中村です。2017年9月入学生の方が今年5月の記事でStart-up Labの概要、仕組み、プロセスについて書かれていますので、私からは、自身のアイデア構築からチーム編成、毎週の活動、最終ピッチと結果、そしてLab後の現状までを書かせて頂きます。

 

Start-up Labは、良くも悪くも自分たちで構築する要素が強いプログラムのため、アイデアの内容から進め方まで個人色が強くなリます。以下の内容もその点ご理解いただければ幸いです。 

 

1) Start-up Labを選んだ理由

私は社費留学ですが、「新しく自分で何かを創る」ことに興味が強く、IEにはStart-upを学ぶために来ました。ですので、入学前からLab periodはStart-up Labを選択すると決めていました。笑

複数の卒業生からもStart-up LabはIEの特徴の一つであるアントレに強い側面を活かしたLabであり、実践的で良いプログラムだと聞いていたので、それも選択の後押しになりました。

 

2) アイデア構築からチーム編成まで

入学前〜入学後も、社会の問題や自身が感じる「不快なこと」を、改善アイデアとともにコツコツとまとめており、それをどこかのタイミングでStart-upのアイデアに使いたいと考えていました。その中で、私がピックアップしたのは、「牛丼や駅そばなど日本食ファストフードのMadrid(スペイン)展開」です。

 

理由は二つあります。一つ目は、一留学生としてMadridで生活する中、Madridではレストランに入るとランチメニューでも日本円で単価1500円前後と高く、ファストフードで済まそうとすると基本的にサンドイッチが殆どのため、「安い、うまい、早いのコンセプトで作る日本食を、手頃な価格で多くの学生やワーカーに提供したい」と考えたから。二つ目は、Madridローカルに密接したプロジェクトにすることで、ValidationプロセスにIEの地の利を活かせると考えたからです。プロジェクト名は、「Don Buri」としました。

 

Start-up Lab前に、Term2のアントレの授業でこのアイデアを話したところ、インドネシア人とペルー人のクラスメイトが参加してくれ、Term2では彼らと3人でこのプロジェクトを進めました。

Start-up Lab生専用の特設サイト
Start-up Lab生専用の特設サイト

その後、Start-up Labでも同じアイデアを継続したいと考えましたが、チームメイトの二人が別のLabを選択していたため、一からメンバー集めをしなければならなくなりました。

 

Star-up Labは、実はここが最初の関門となります。どんなに良いアイデアがあっても、基本3~5人のチームを編成できなければプロジェクトとして継続させてもらえません。チーム編成のために、学校側も、各人のアイデアやStart-up Lab生のプロファイル一覧が見れる特設サイト、また、「Networking day」という交流の場をLab開始前に提供してくれます。

私も、特設サイトにアイデアの投稿を行い、さらに、Don Buriを進めるにあたって必要と考えるバックグラウンドを持つ人に、事前にコンタクト・勧誘を行いました。

 

結果、Techと寿司職人のバックグラウンドを持つ日本人のIさん、ファイナンスバックグラウンドでファストフードのフランチャイズオーナーだったフィリピン人、レストランコンサルと投資ブティックの起業経験があるメキシコ人が参加してくれることとなり、4人でチームを編成することができました。

3) Lab 1週目〜3週目の活動と結果

Term2の授業で、すでにDon Buriのアイデアにて、Validationテスト、ビジネスモデル作り、コスト計算、ファイナンスまで考え、プレゼンまで実施していたため、アイデアやビジネスモデルの確立という作業はなく、非常に負荷の少ないスタートとなりました。

 

食べ物である強みも生かし、ピッチ時には毎回牛丼などをPanelistに用意し、日本の割烹着を着てアイキャッチーなプレゼンを行いました。それも一助になってか、1、2週目はメンター、投資家からの評価も総じてよく、アイデアをやモデルの大きな変更もなく進みました。

 

この余裕のある期間に、Madridローカルなプロジェクトであることの強みを生かそうと考え、2週目にIE内で牛丼と豚丼の試食会と味・価格調査、3週目に現地ワーカーのCo-working spaceで同様のテストを実施しました。のべ120人以上にプロトタイプを試食してもらい、フィードバックを頂きました。

味の評価は、学生の方がワーカーより高く、払ってもよいと回答した価格は、ワーカーが学生より高くなりましたが、いずれの結果も想定の範囲内でした。一方で、野菜が少ない・バリエーションが欲しいなどの意見が一定量あったため、バリエーションのレシピ開発をしながら、許容価格範囲内で再値付けを行うなどの調整を実施することにしました。

また、市場状況やローカル情報の収集も進めました。その中で、1. スペインにおけるアジア料理の人気の高さ(非スペイン系レストランの17%がアジア料理である一方で、同レストランへの顧客数は全体の45%を占める)、2. ファストフードの伸長率の高さ(欧州全体ではファストフードは1~2%の伸長率であるが、スペインは同比率が8%であり、かつアジアンファストフードは年率20%の伸長率である)、3. マドリードでの日本食ファストフードポテンシャルの高さ(マドリードでは日本食レストランが200店舗あるが、日本食ファストフードは1店舗しかない)、の3つのポジティブ情報が得られ、Don BuriビジネスのValidationプロセスも着々と進んで行きました。

そうこうしながら、迎えた3週目金曜日の投資家(Panelist)へのピッチで、Don Buriは、Virtual Funding(Panelistによる仮想ファンディング)で0ポイントという結果を受けてしまいます。

 

主な理由は、1. 何を伝えたいのかわからない・ストーリーが見えない、2. 熱意がない、3. 質問に対して納得いく回答を実施していない、というものでした。4分という限られたピッチ時間にもかかわらず、得られた情報を盛り込みすぎ伝えたいポイントがぼやけたこと、また、ピッチの事前練習や想定質問への準備を怠ったことが原因でした。

 

大きなショックを受けた一方で、即日、3週目ピッチのPanelist達にコンタクトし、面談と具体的なアドバイスの依頼を行いました。悲壮感と奮起が入り混じった複雑な心境でしたが、とにかく精神的に疲れていました。

4) Lab 4週目〜5週目の活動と結果

3週目末の土曜日は私の家でレシピ開発を行い、日曜日はPanelistとの面談に向けてプレゼン資料の再構築を行いました。疲労と悲壮の中で土日も朝から晩までプロジェクトに時間を費やし、4週目には精神的にも肉体的にも疲労がピークを迎えました。授業もある、プロジェクトもある、Panelistとの面談では辛辣なコメントを受け、また、チームメンバーのコミットメントレベルの違いにも、個人的に相当イライラが募っていました。

 

極めつけは、4週目木曜日のPanelistとの面談で、「こんなプレゼン資料では話にならない。もっとVisualも工夫しないとダメ。外部にでも依頼しろ」と言われたことです。「4週目ピッチの前日にそんなことを言われても対応できない。自分達でやるか、明日のピッチは諦めるしかない。。」 もの凄い悲壮感の中で、チームメンバーとともに選んだのは、徹夜でプレゼン資料のデザインとストーリーつくりを一から行うというものでした。Webから著名なスタートアップ企業のプレゼンデザインを調べ、また、プレゼンのうまい他チームに依頼してプレゼン資料を共有してもらい、自分達で試行錯誤して必死で作り直しました。

徹夜明けの金曜日は、朝から念入りにピッチの練習を行い、やれるだけのことはやった4週目でした。

 

結果、4週目のピッチでは、41チーム3位のVirtual Fund額を得ることができました。その結果を聞いた時は、頑張りが報われたことへの安堵と感謝、そして、最終週に向けて更に加速してやるぞと、心の底から沸き上がってくる熱い思いを感じました。

 

3週目の反省会で、「先手先手で動く、アクセスできる人・所には全てアクセスを試みる、それをもう一度徹底しよう」と話し合い動いていたため、5週目にやるべきことは4週目のうちに決まっていました。

プラットフォームサイトを使い、日本人のデザイナーに依頼して店舗イメージのイラストを作成してもらったり、プレゼンスライドのデザイン変更を複数の外部機関に依頼したり、メンバーで手分けして行いました。

加えて5週目は、我々のビジネスモデルや日本食について街頭調査を行おうと、Madridのオフィス街に出かけて60人以上の人に声をかけ、マドリードローカルの方々から意見を頂きました。そこで得られたプラスの情報としては、日本のサブカルチャー、特にマンガ、アニメ、ゲームなどの知名度が非常に高く(「日本といえば」という質問で、寿司に次いで数が多かったのがアニメ、マンガ、ゲームの名前やキャラクター)、また、それらに対してポジティブな印象を強く持っているというものでした。

複数のPanelistとも引き続き面談を続け、サブカルチャーを加えるアイデアやプレゼンをブラッシュアップするためのアドバイスをもらいました。5週目もほぼ徹夜となった日が2日ほどありましたが、結果がついてきていること、役割分担が明確になっていること、やるべきことが決まりそれに向けて迷いなく取り組めていることにより、疲労感はあまり感じず、チーム全体としても再度活気付いていきました。

 

最終週のピッチでは、これまでのFund額上位12チームが金曜日の会場でのピッチを割り当てられます。

Don Buriもそこに入ることができ、また、最終12チーム中5位というFund額を得ることができました。

他チームは、リーダーが一人でプレゼンや質疑応答を行うところもありましたが、Don Buriは、皆でプレゼンと質疑応答に対応し、チーム一丸となって渾身のピッチができました。

 

Panelistの一人から、「私がこれまで見たスタートアップピッチの中で、one of the bestの情熱を持っている。素晴らしかった」と言ってもらえたのは、本当に嬉しかったです。

 

5) Final pitchを終えて、これからについて

Start-up Lab中からチームで話し合っていましたが、最終的にStart-up Labで良い結果が得られたこと、具体的なビジネスの構想も固まってきていることもあり、現メンバーでDon Buriのプロジェクトを継続することになりました。複数の投資家とも継続して話を続けています。また、メキシコ人メンバーが中心となって、すでにスペインでの会社登記に向けて動いています。

加えて、Start-up Lab中に研究と情報収集のため日本食レストランの食べ歩きをしていたのですが、そこでたまたま知り合った料理人の方にも少し協力して頂けることとなり、9月以降にイベントなどでPop-up storeやFood truckを出店することを計画しています。

 

6) Start-up Labについてのアドバイス

皆さんがもし、エンジェル投資家だったら、投資先の要件としてどのようなものを挙げるでしょうか?

1. リスクが低いこと、2. リターンが大きいこと(Scalability)、3. 早くリターンが返ってくること、4. アイデアがウケそうかどうか、5. メンバーの能力とやりきる力があるかどうか、そのあたりを挙げられると思います。

まさに、これらがそのまま、Start-up Labでも投資家が評価する要件となります。これらの中での優先順位は、正直、投資家によって異なります。ですので、一概に何が一番かは言えません。

 

一方で、アイデアが斬新であること、トレンディなものであることも一定の要素になりますが、この二つは前述のものほど大きくはないと感じました。投資家にとって重要なのは、まずは投資に見合うリターンを得られるかどうかだからです。(ただし、Venture Labの要件と優先順位は異なると見ています。その件については興味がありましたら、別途ご連絡ください。)

Don Buriの場合は、上記の4, 5が評価されたのではないかと思っています。

 

7) 所感と反省、さいごに

改めてStart-up Labを振り返ってみて、本当に素晴らしいメンバーとご縁に恵まれたと心から感謝しています。我々Jan-2018入学のStart-up Labは、全41チームありましたが、うち10チーム近くにおいてLab中のメンバー変更があったと聞いています。それだけストレスフルな環境であるにも関わらず、チームが最後まで一丸となって目標に向かえ、Start-up Labが終わった今もこのメンバーで一緒にプロジェクトを継続したいと言えることは、本当に素晴らしいことだと感じています。

 

難しかった点は、チームマネジメント、特に個々人の働き方の価値観への対応についてです。プロジェクトへのコミットメントレベルの違いは当然あるにせよ(言い出しっぺが一番思いが熱いのは当たり前)、それ以前に、「時間の使い方や進め方の違い」は大きな壁と感じました。

例えば、金曜日の結果がどうであっても土日は一切学校関係のことはしないということが生じた週もあり、その際にどうやって対応すべきか苦慮しました

 

反省点も、チームマネジメントについてです。チームDon Buriでは、役割分担を初めから明確にしてやりたくはなかったので、つど役割を決めて対応していました。一方で、このアイデアを出した責任として、アイデアや方向性のマネジメントについては、ある程度指揮をとるべきと考え意識していました。しかし、結果として、プレイヤーとして自分も動きながら、各人の役割分担や進め方を決め、各人とのコミュニケーションにも配慮することは両立ができませんでした。

 

特に4-5週目は、3週目の挽回のため私がピッチ結果を重視するあまり、メンバーとのコミュニケーションを疎かにし、独善的な役割分担を行い(一方的な指示)、プレーヤーとしての自身のパフォーマンス向上に注力したことを、心から反省しています。これではマネジャーは務まらない。毎週のピッチ後はチームで食事会を開催したり、ねぎらいと感謝の言葉をかけるようにしていましたが、至らぬ点の方が多かったと思います。そんな私にも関わらず、チームメンバー全員が我慢して意見を尊重してくれることが多々あり、そのような思いやりと協調の心を持ったチームメンバーに、改めて感謝しています。

 

苦労した点は、プレゼン資料作りでしょうか。個人的な感想ですが、海外の人は”Visual”面でプレゼン資料を作るのが得意な人が多く、それは、プレゼンの結果に大きな影響を及ぼすということがはっきりわかりました。「内容」だけでなく「魅せ方」も重要だと認識でき、結果論ですがそのスキルアップのために色々調べ、学べたことは大きな力となりました。

 

最後に、特に私ごとで恐縮ではありますが、レシピ開発や買い出し、試食の準備、日本食レストラン巡りなど、妻にも本当に支えてもらいました。妻の助けなくして、Don Buriの継続はできなかったと思います。妻への感謝の気持ちを最後に、Start-up Lab体験記のくくりとさせていただきます。

長々とお付き合い頂きありがとうございました。