地球の真裏、ブラジルのサンパウロに2016年、日本からブラジルへの投資・支援をひきつけることをミッションとして、ブラジルベンチャーキャピタルが設立されました。このVCを立ち上げたのは、IEのInternational MBA 2011年卒業生、中山充さん。
ブラジルで起業。そう聞くと多くの人はきっと、帰国子女でポルトガル語が堪能、現地にも精通していたからこそ出来たに違いない、と思うことでしょう。ところが中山さんはそうではないのです。
そんなユニークなキャリアを辿ってきた中山さんが日本へ一時帰国している折に、ようやくお話を伺うことができました。
中山さんは大学卒業後、ベイン&カンパニーの東京支店に就職。その後、ベインの先輩と共に家具レンタルとインテリアビジネスを起業。
スタートアップして10年経ったところで休憩をしながら経験の棚卸しをするため、2010年IEに入学。そして2011年に卒業後、ブラジルで就職。
日本人が少ないところへ行きたかった
「日本企業って意外に海外進出で成功してないんです。ずっとアメリカが日本を買っていてくれて、でもそれ以外のところに売るのはあんまりうまくない。
スペインにいても普通に暮らしていると日本企業のプレゼンスって感じないでしょ。中国や韓国企業はでていますけど。だから危機感を感じて、海外に行こうと思ったんです。自分が50歳くらいになって仕事なくなると困るな、と。
日本の中にいて外へ出て行くというのでも良いんですが、日本の外から引っ張ってあげる役があってもいいんじゃないかなと。それで日本人が少ないところを選んだんです。そこにいけばまだ競争もまだ少ないはずだから。」
それにしてもIE卒業後、いきなりベインのサンパウロオフィスに採用された訳ですが、元々ポルトガル語はできたんですか?
「いやいや、ゼロです。ブラジル着いてからですよ!笑
就職先の国の条件として、日本より経済が伸びる余地があり、日本人がまだ少なく、ギリギリ住めるところ、となるとあんまりないんですよ。ラテンアメリカ、中東、アフリカ、ロシアくらい。住み心地は不安だったんです、知らなかったから。実際危ないし。笑
IEにいる間、ラテンアメリカを13カ国くらい回ったんです。当時はね、第三タームでインターンができたんですよ。中国で会社を経営している友達がラテンアメリカ進出プロジェクトというインターンの機会を提供してくれたので、夏休みも合わせて3ヶ月かけてラテンアメリカを回ったんです。」
インターンをしている間、その国・地域で働けるかどうかのマッチングを試す為、とにかく現地で色んな人に会いまくることに決め、その人数は百数十人にも上ったそうです。
IEのクラスメートの兄弟や元同僚からの紹介。紹介された人からまた紹介。
そのうち、東京のベインの後輩が、ベインのブラジルのマネジャー(現在はパートナー)を紹介してくれました。
まずは英語話せれば仕事はあるとの言葉を信じ、いざ選考を突破して入社したら全く異なる状況。ポルトガル語は必須でした。
Google Translatorなどのツールを頼って何とかやりくりしながら、つたないポルトガル語でクライアントと接する中で、ブラジル人特有の寛容さ、外国人へのやさしさに気づいたといいます。
「日本で日本企業のプロジェクトに日本語が話せない外国人をアサインしたら、普通クライアントは怒るじゃないですか。
ブラジル人は外国人が片言のポルトガル語話しても聞いてくれて、何回も何回も説明してくれるんですよ。言葉がつたないことと、自分が他にできることは別だと考えてくれてたんですね。
クライアントはブラジル企業がほとんどでした。だからアサインする方も勇気いるでしょうね。
ブラジルはNYに比べてももっとダイバーシティが高いので、外からのものの受け入れ体制ができてるんですね。
あとは日系人の方々のおかげで、日本人へのレピュテーションがあるんですよね。苦労しながらも勤勉で、昔から士業やられる方が多くて。」
現在、2016年に自身が設立したベンチャーキャピタルの他に、日系のバイオテック企業のラテンアメリカ地域のビジネス開発のポジションで、メキシコ、コロンビア、チリ、アルゼンチンを飛び回っています。
日系企業ブラジル支社の会社員と、日本企業の投資をブラジルへ引っ張ってくるベンチャーキャピタル。どちらが生活の中心になっているかと聞くと、二束のわらじのそれぞれに100%の力を注いでいると迷いなく言います。
日本を世界に引っ張り出す仕事
「起業家が色んなことを帰る原動力になりたいと思ってます。
そしてVCという仕事は、日本のお金を向こうに持っていく仕事。ブラジルのベンチャーへのアクセスってなかなかないんですよね。バイオテック企業でのラテンアメリカ展開の仕事も、日本のものを外に持っていく仕事。ブラジルのVCの市場を見たときにも、日本ほどまだまだ整備されてない。日本はシリコンバレーと比べて遅れてるって言われてますけど、でも実は相当恵まれてるんですよ。各ステージごとでファイナンシングできるし、起業して成功したひとが戻ってきて助けてくれたりとか。そういうエコシステムがまだブラジルにはない。だからこそ、そういう未整備な地域の起業家に貢献できる。
ブラジルで起業家が何かをやって社会を良くする、例えば生産性が上がったり、楽しい世の中になれば良い。そこに貢献できる仕事としてVCを選んだ。
日本企業を外に引っ張り出していくことも、結局そこにつながってるんです。ブラジルへは楽天をはじめ、ソフトバンクもブラジルのライドシェアに投資したり、電通もブラジルのデジタルマーケの会社に投資している。そういう日系企業にとっての現地パートナーの候補をプールしていくというところ。
基本的にはIT系でステージはアーリー。フィンテックとかリテールテックとかを対象としています。」
IMBAでの経験はどうでしたか?
「キャリアをたな卸しするためだったので1年という期間が良かったですね。クラスでは自分の経験を話したときのみんなのリアクションが面白かった。あ、こんな風に受け止められるんだとか、これはあんまり感心されないんだな。とか。笑 グループもタームごとに変わったり、そこのミックスも面白かったです。
自分が結局何をしたいかって言うことだと思うんですけど、IEでは選択肢が多い。スタートアップしたい人はベンチャーラボでやれるし、ファミリービジネスの人はそういう科目を取ったり、やれることの幅が広い。その辺のフレキシビリティの高さが良かったですね。
まずMBAにいくかどうかの選択、そしてどのMBAに行くかの選択。自分がそこでどういうことをしたいかっていうのが大事。正直、どこのビジネススクールだから就職しづらいとかはあんまりないんです。だから、一つ目は自分が何をしたいのかクリアにすること。二つ目は、なるべくその学校の人に会うこと。3~4人も会えば、その学校のことって大方分かりますよね。大きな時間とお金の投資だからキャンパスビジットはやったほうがいい。あとは合格するかどうかは相性もあるから気にしないで、そのプロセス自体も楽しむこと!」
海外で就職、というのは多くの日本人MBA学生が目標のひとつにしていることですが、望めば誰でも叶うほど簡単なことではありません。
とにかくあがいて、今出来ることをやってみるということが大事で、中山さんにとってはそれが「ラテンアメリカで人に会いまくること」だったんだろうと思いました。
今自分にできることをとことんやってみると、道は開ける、そんなシンプルなことを改めて思い出させてもらえました。
中山さんは2018年5月25日、著書「中小企業経営者が海外進出を考え始めた時に読む本」を出版されました。ぜひ読んでみて下さい。